5 印・印影・印章・印鑑

1 印
 印とは,法令上は「印顆」(いんか:印形つまり「はんこ」のこと)を意味する用語です。
例①:民法970条に「遺言者が,その証書に署名し,印を押すこと。」という規定がありますが,ここでいう「印を押す」ということは「印顆つまりはんこを押す」ということです。
例②:法人税法151条に「法人の提出する法人税申告書等・・・が自署し,自己の印を押さなければならない。」という規定の「印を押さなければならない。」も,印顆を押さなければならない,という意味になります。

2 印影
 印影とは,印顆を押して表された「影蹟」のことを意味します。要は,朱肉を用いてはんこを押したときに,紙の上に残った跡のことです。
例③:民事訴訟法229条1項で「文書の成立の真否は,筆跡又は印影の対照によっても,証明することができる。」との規定の「印影」がそうです。法令上は,「筆跡又は印影」というように,筆跡と対になって用いられています。

3 印章
 印章という言葉は,広辞苑によりますと「印。判。はんこ」と書いていますので,日常用語としては「印顆」のことですが,法令上は,印顆を表す意味で使われる場合と,印顆と影蹟の双方を表す言葉として使われる場合があります。
後者の例として
例④:刑法165条1項は「行使の目的で,公務所又は公務員の印章又は署名を偽造した者は,3月以上5年以下の懲役に処する。」と規定していますが,ここでいう「印章」は,印顆と影蹟の双方を含むとするのが判例です。はんこを偽造した場合も,印影を偽造した場合も犯罪になるのです。

4 印鑑
 日常用語としての「印鑑」は印顆つまり「はんこ」を意味しますが,法令上は違います。法令上は,印鑑は,印顆を用いて紙などに押した「印影」のことをいいますが,法令上にこの言葉が使われるのは,印影の対象用として,官公庁などに,あらかじめ届け出ておく印影の意味に使われます。
例⑤:商業登記法20条1項は「登記の申請書に押印すべき者は,あらかじめ,その印鑑を登記所に提出しなければならない。」と規定していますが,ここでいう「印鑑」がその印影,つまり,この場合は,登記所に対照用に届出る「印影」を意味するのです。

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