敷地の二重使用って何?

同じ土地が,複数の建物の敷地になることを言います。
本来,建物の敷地は,同時に,他の建物の敷地にはなり得ないのですが,一定範囲の土地を敷地として建築確認を得ても,建ぺい率や容積率を守る以上,その土地全体に建物を建てることはできず(建てれば建ぺい率100%ということになります),物理的には建物の敷地になっていない土地が生じます。
そこで,この空地部分に建物を建てるため,この空地部分を敷地として別の建物の建築確認を申請するのです。
建築主事等が二重敷地であることに気がつかず,建築確認をし,その空地部分に建物が建築されると,最初の建物は,建ぺい率や容積率違反の違法建築物になりますが,現実には起こりうることなのです。
平成18年6月12日最高裁判所判決をご紹介します。
事案は,土地の所有者(甲)が,建築会社(乙)と銀行(丙)の勧めにより,土地の一部を売却し,その代金と銀行からの融資金で残った土地上に建物を建築し,その建物から得られる賃料収入を銀行への借入金の返済等に充てる計画をたて,建物を建築した。
しかしながら,この建物は,容積率の関係から売却予定の土地を含む土地全部を敷地として建築確認がなされていたため,売却予定の土地を売ると,その余の敷地部分では容積率の制限を超える違法な建物になり,また,売却予定地を買った者も,そこを敷地として建築するには,異なる建物に土地を二重に敷地として使用することになるので,建築確認を受けられない可能性があったため,結局のところ,土地の所有者は,建物の建築後,予定していた土地が売却できず,銀行への融資金の返済ができなくなった。
そこで,甲は,説明義務違反を理由に,乙と丙に対し,損害賠償の請求をした,という事案です。
平成18年6月12日最高裁判所は,乙の責任については,
① 売却予定地を売却する場合には,買主がこれを敷地として建物を建築する際,敷地の二重使用となって建築確認を直ちには受けられない可能性があったこと,
② 甲には信義則上敷地の二重使用の問題を買主に明らかにして売却する義務がある以上,本件建物がない場合に比べて売却価格が大きく低下せざるを得ないこと
③ したがって,本件建物を建築した後に売却予定地を売却することは,もともと困難であったこと,
④ このことは,甲と乙との契約及び甲と丙との融資契約を締結するに当たり,極めて重要な考慮要素となること,
⑤ したがって,乙の担当者には,建築計画を提案するに際し,甲に対して敷地問題とこれによる売却予定地の価格低下を説明すべき信義則上の義務があった
⑥ しかるに,乙の担当者は,敷地問題を認識していたにもかかわらず,売却予定地は,売却後に建物が建築される際,建築主事が敷地の二重使用に気付かなければ建物の建築に支障はないなどとして,本件敷地問題について建築基準法の趣旨に反する判断をし,甲に対し,敷地問題について何ら説明することなく,計画を甲に提案したのであるから,乙の担当者の行為は,上記説明義務に違反し,甲に生じた損害について賠償すべき責任を負う と判示しました。

また,丙に対しては,
① 一般に,銀行担当者には,返済計画の内容である土地の売却の可能性について調査した上で甲に説明すべき義務が当然にあるわけではない。
② しかしながら,銀行担当者が売却予定地の売却について銀行も取引先に働き掛けてでも確実に実現させる旨述べるなど特段の事情が認められるのであれば,以上の敷地問題を甲に説明すべき信義則上の義務を肯認する余地があるので,その点を審理するため,原審に差し戻す。
と判示しました。
ちなみに,原審では,乙の担当者は,土地を売却した後,これを敷地として建物が建築される際,建築主事が敷地の二重使用に気付かなければ建物の建築に支障はないとの見込みに基づいて本件計画を作成し,実際にも,建築主事が敷地の二重使用に気付かずに建築確認をする可能性は十分にあったから,その当時,本件敷地問題があったとしても,資金をねん出することが困難な状況にあったとまは推認することはできない,したがって,乙被上告人らに説明義務違反があったとはいえない,と判示し,甲の請求を認めませんでした。
この原審の判決は,コンプライアンス精神がないと言わざるを得ません。
この点,最高裁判所はやはり見識の府だと思います。