マルチ商法の被害者救済の法理論

1,マルチ商法
被害者を出しているマルチ商法のほとんどは犯罪となるネズミ講と同じシステムになっています。
ネズミ講に加入する契約はそれじたい公序良俗に反する法律行為ですので無効です。
ですから,これによる請求は拒否でき,支払済の金銭も返還請求ができます。
クレジットを組んでいる場合も,抗弁権の接続で同じ主張が出来ます。
マルチ商法の場合は,それ自体を犯罪とはしていませんが,周辺行為を犯罪としていますので,現実に被害を出しているマルチ商法の場合も,ほとんどが周辺行為の公序良俗違反行為を無効として,被害者を救済しています。

【解説】
マルチ商法とは,特定商取引に関する法律でいう「連鎖販売取引」のことです。
これはネズミ講と類似の構造をもった取引システムです。

ネズミ講とは,無限連鎖講の防止に関する法律でいう「無限連鎖講」のことですが,これは同法により,無限連鎖講を開設又は運営した者は3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し又はこれを併科する(5条)とされているだけでなく,会員となって,反復継続の意思をもって他の人に会員になることを勧誘(「リクルート」といいます)しても1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる(6条)犯罪になる行為です。

ネズミ講すなわち無限販売取引の定義は,金銭や国債などの有価証券を出して加入者となり,その加入者が2人以上の後順位の加入者を集めることで講の経営者から対価を得るシステムのことです。
このシステムは,会員が会員になるときにお金を支払い,その会員が子となる会員を確保することで対価を得るものですから,子会員を確保できないときは,対価を得ることが出来ないことになります。
このシステムがネズミ講と言われる所以は,この講の最初の加入者を1代目の会員とし,その会員が2名以上の子会員を作り,子会員も同じく2名以上の孫会員を作るという作業をし,孫会員以下の会員も同じようにその下に位置する会員を複数増やしていけば,会員はどんどん増えていきますが,その増え方があたかもネズミが増えるような勢いになる(幾何級数的な増え方)ところから,名付けられたものです。

ところで,このシステムの下では,どこまで会員を増やす続けることができるのでしょうか?
会員の増加数が最低の2名であっても28代で,会員がすべて3人の会員を募っていけば18代で,4人の会員を募っていけば15代で,会員数は日本の人口を超えてしまいます。

ですから,ネズミ講は,いずれのときか会員数の増加ができなくなり,「終局において破たんすべき性質のものである」のです。
また,このシステムは「いたずらに関係者の射幸心をあおり,加入者の相当部分の者に経済的な損失を与えるに至るものであること」から「これに関与する行為を禁止する」とされ,犯罪とされているのです。(カッコ内の言葉は無限連鎖講の防止に関する法律第1条で書いている言葉です)。

では,同じシステムであるマルチ商法も,犯罪になるのかと言いますと,これについてはシステムの開設者又は運営者というだけでは犯罪になりません。
またこのシステムのリクルート者も犯罪にはなりません。

これを犯罪にしないのは,マルチ商法にはいろいろなバリエーションがあるので,ひとくくりに犯罪にする構成要件を定立することが法技術的に困難であることが理由とされています。

しかし,だからといって,マルチ方法が全面的に許されているというものではなく,マルチ商法を運営する者が,法で定める規定に違反したときに,それを犯罪として規制しているのです。

例えば,
(1)一定の事実について事実に反することを告げる,または,
(2)重要な事実を告げないことや
(3)「必ず儲かります」などの断定的判断をする,あるいは
(4)威迫的な態度で契約を迫るなどする
と,2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられるのです。

学者の言によりますと,現在問題になっているマルチ商法はほとんどすべて何らかの行為規制に抵触し犯罪になる,ということですので,現在被害に遭っている人は,これを犯罪によるものとして,マルチ契約を公序良俗違反による無効を主張して救済を求めるべきであると考えます。