行政指導によって,自治体と「公害防止協定」を結んだが,有効なの?

 企業が,公害を発生させる可能性のある工場を建てようとする場合,その工場や企業活動が公害防止に関する法律や条令等に違反する場合でなくとも,ときに,地元住民の反対に遭い,工場建設や創業に支障が生じるという場合があります。
 
 このような場合,自治体が企業に対し行政指導をし,企業との間に 「公害防止協定」や「環境保全に関する協定書」等の協定を結び,企業に一定の事項を約束させることで,地元住民も反対の矛を収めるとういうことがあります。
 この場合,自治体と企業との間で結んだ協定は有効か?が問題になります。
 学説上は,このような協定の効果は紳士協定の効果しかないという説と,契約としての効果があるという説に分かれます。
 紳士協定説は,行政上の規制は法律または条例に基づき行われるべきだから(法律による行政の原理),協定に法的拘束力はないと考えるのですが,契約説は,企業は,地元からの反対を撤回してもらう等の利益が得られる対価として,自らの計算で企業活動の自由の一部を放棄するのであるから,その約束は法的に有効であると考えています。
 通説は契約として有効であると見解です(塩野宏「行政法Ⅰ第三版」172頁)。
 ただ,この協定の効力は契約の効力ですので,それに違反しても刑罰の適用は受けません。
 また,行政強制を行うこともできません。
 企業が協定に違反した場合は,自治体は,民事上の請求(違約金の請求や差し止め請求等)を請求できるだけです。

 なお,山口地裁岩国支部平成13年3月8日判決は,「被告市と被告会社は,公害防止協定を締結したところ,これによって,被告会社は,前記覚書にある数値を超えた悪臭物質を伴う煙を排出しない義務を負い,被告会社がこれに違反し,被告市からその是正の勧告を受けても,これをしなかった場合,被告市は,被告会社に対し,操業の短縮又は一時停止,その他必要な措置を求めることができる権利を取得したものといえる。」と判示し,公害防止協定に法的効果を認めています。
 そして,同判決は,「この権利義務関係の発生原因たる契約は,その公共的性格から,公法上の契約といえるが,法令上の根拠がない以上,被告市は,被告会社に義務不履行があったとしても,行政上の強制執行や行政罰によって履行を強制することはできず,公法上の当事者訴訟を提起して義務履行を命じる給付判決を得,民事執行法上の執行によって履行を強制するほかないと解せられる。」と判示し,その効果は民事上の効果にとどまり,行政処分としての効果は認めていません。