著名人の名称を勝手に使っても問題ないの?

 著名人が生きている場合は勝手に使えませんが,亡くなっている場合は,原則として使えます。

 著名人の氏名を使って商売をしますと,氏名は当該著名人を象徴する個人識別情報として顧客吸引力を備えていますので,商売の上でたいへん有利ですが,この有利さは,著名人が持つ一個の独立した経済的利益ないし価値ですから,著名人は,この経済的利益ないし価値を排他的に支配する権利を有する,とされています。
 著名人の氏名は著作物ではなく,したがってこれを無断で使っても著作権の侵害はなく,また,商標法上登録されていない場合は商標権の侵害もなく,さらに,営業の侵害の恐れがない場合は不正競争法にも違反していないので,このような場合は,第三者が著名人の氏名を使っても何の権利も侵害しないように見えますが,人には皆人格権があり,氏名を無断で使うことは出来ません。
 著名人の場合は,これに加えて,前述のような顧客吸引力という経済的な価値を排他的に支配しうる権利があり,この権利は「著名人のパブリシティ権」と呼ばれています。
 この権利は,生きている著名人に認められ,死者になった著名人の遺族には,原則として認められません。

 以下,詳述します。
 東京高裁平成14年9月12日判決によれば,「著名人のパブリシティ権」と呼ばれるものは,著名人の氏名,肖像が,当該著名人を象徴する個人識別情報として,顧客吸引力を備えるものであるから,一個の独立した経済的利益ないし価値を有する。
 著名人は,この経済的利益ないし価値を排他的に支配する権利を有する。
 したがって,第三者が,単に経済的利益等を得るために,顧客吸引力を有する著名人の氏名・肖像を無断で使用する行為については,著名人が排他的に支配している,その氏名権・肖像権あるいはそこから生じる経済的利益ないし価値をいたずらに損なう行為として,この行為の中止を求めたり,あるいは,この行為によって被った損害について賠償を求めたりすることができる。
 この権利は,もともと人格権に根ざすものである。したがって,著名な競争馬など人間ではないものについては,その名称を差し止める権利はない,旨判示しています。
 そして,この権利は,人格権の基づくものであるので,著名人とは生きている人であることが前提になっています。

 では,死者について,パブリシティ権が認められるかというと,東京高等裁判所平成18年5月24日第22民事部判決は,死者については,刑法230条2項,刑訴法233条,著作権法60条,116条のように,死者の名誉及び著作者の死後におけるその人格的利益について,実定法が,その法的保嘗の必要性を認めて一定の構成要件を定め,かつ,その告訴権者であるとか著作権法上の請求権を行使し得る者を規定している場合にのみ,その限度で死者の名誉等が一つの法的利益として保護されることになるものであるが,死者に権利主体性を認めたり法的人格権を認めることになるものでないことも明らかであって,不法行為法上,死者が生前有していた名誉等の人格権について,その一身専属性を否定するような実定法規が存在するものと認めることはできないと判示していますので,死者には,パブリシティ権が認められないことになります。
 ただ,同判例は,故人の社会的評価を低下させることとなる摘示事実又は論評若しくはその基礎事実の重要な部分が全くの虚偽であること,これにより当該行為の属性及びこれがされた状況(時,場所,方法等)などを総合的に考慮し,当該行為が故人の遺族の敬愛追慕の情を受忍し難い程度に害するものといい得る場合に,当該行為について不法行為の成立を認める,としています。