12 開発許可の前提になる公共施設管理者の「同意」について

 実務上相談の多いところですので,まとめてみます。

1「同意」の位置付け
 これがなければ,開発許可が出されない重要な行政庁の行為
 都市計画法32条1項は,「開発許可を申請しようとする者は,あらかじめ,開発行為に関係がある公共施設の管理者の同意を得……なければならない。」と規定し,同法30条2項は,開発行為の許可申請書には,右の「同意を得たことを証する書面」の添付を要求し,同法33条1項は,開発許可の申請が同項の定める基準に適合しており,かつ,「その申請の手続がこの法律又はこの法律に基づく命令の規定に違反していないと認めるときは,開発許可をしなければならない。」と規定していますので,「同意」は,開発許可の前提になるものです。

2行政側は,32条の「同意」を,他の行政目的達成のために拒んだり,保留にするなどして活用できないか?
 できません。
 法32条3項には,同意のための協議は,「公共施設の適切な管理を確保する観点から」行うと明記されています。国土交通省の,地方自治法第245条の4に基づく技術的助言である「開発許可運用指針」には,法32条関係として,「本来の公共施設の管理者の立場を超えた理由により同意・協議を拒んだり,手続きを遅延させたりすることは,法の趣旨を逸脱した運用となるおそれがあることに留意すべきである。」と記載されています。また,行政行為が,目的に反し,法律によつて与えられた裁量権の限界をこえた場合は違法であるというのは,判例の認めるところでもあります(最高裁昭和42年5月24日大法廷判決,最高裁昭和48年9月14日判決等多数)ので,「公共施設の適切な管理を確保する観点」以外の観点から,同意を拒絶したり,留保することは許されません。

3公共施設管理者とはどの範囲の者か?私人も含むのか?
 含みます。
 同法32条にいう公共施設は,同法4条14項及び同法施行令1条の2によれば,道路,公園,下水道,緑地,広場,河川,運河,水路及び消防の用に供する貯水施設を指すものとされていますが,これら各公共施設については別段の定義を定めていないので,各公共施設の意義は,行政法上一般に用いられている意義に従い理解するのが相当とされ,道路には,道路法2条1項,3条に規定する道路,道路運送法2条8項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所がすべて含まれると解され,その結果,いわゆる公道のほか,私人が事実上一般交通の用に供しているいわゆる私道(建築基準法42条1項5号など)も含まれるものとされ,道路以外の公共施設についても,道路の場合と同様,当該公共施設の敷地,施設等につき,所有権等の私的権限を有し,この権限に基づき当該公共施設を管理している私人も含まれているものと解されています(東京地裁昭和63.1.28判決)。

4処分性
  抗告訴訟の対象になる「処分性」は否定されています。
  最高裁判所平成7年3月23日判決は,「同意」は「公権力の行使」つまり行政処分ではない。その取消訴訟は提起できない,と判示しています。

5国家賠償法の対象になるか?
 なります。
 国家賠償法1条は,国又は公共団体の「公権力の行使」が不法行為を構成するときは,被害者は,損害賠償の請求ができることを認めています。ただ,国家賠償法でいう,「公権力の行使」は,行政処分である「公権力の行使」よりも広く,裁判例では,「同条にいう公権力の行使とは,国又は公共団体の作用のうち純粋な私経済作用と同法2条によつて救済される営造物の設置又は管理作用を除くすべての作用を意味する」(東京高裁昭和56.11.13判決)と判示されており,行政指導(東京地裁昭和51.8.23判決)や,事前相談の応答(京都地裁昭和47.7.14判決)もその対象になるとして賠償責任が認められています。そして,国家賠償の対象となる「公権力の行使」には「同意しないこと」も含まれると考えられています。結論においては違法ではないとして賠償義務は否定しましたが,「32条の協議になかなか応じない不作為」を対象にした賠償請求事件(東京高裁平成2.6.13判決)も起きています。